尾原和啓/山口周著「仮想空間シフト」

コロナで仕事や生活がどう変化したか、
アフターコロナでも元に戻るもの、戻らないものは何か、
少し頭の整理をするために手にとる。

さて、自分はコロナで仕事がどう変わったか。
在宅が増え、会議の多くがリモートになった。これが一番の変化。リモート会議は、実は好影響ばかりだ。

・時間通りに始まり、時間通りに終わる
・会議の進行が、阿吽の呼吸ではなく要所要所で言語化されるため、会議の結論や成果が明確になった
・立場や空気を読まずに、思い切って発言しやすくなった
など挙げればきりがない。

ただし、これはメンバー間でベースとなる信頼関係があってこそ。なおかつ、会議の目的が明確であってこそ出てくるメリットだ。

逆に課題が曖昧であったり、新しいプロジェクトの始まりだったり、あるいは接点の少なかったメンバーが多い場合はなかなかリモート会議は難しい。
ただし、ここでいう「難しい」とは、コミュニケーションの難しさというよりも、自分がその仕事にいかに貢献するか、の立ち振る舞いの難しさ。

この難しさをいかに表層的なスキルとしてではなく、向き合う姿勢として慣れていくかが、「仮想空間シフト」の鍵であると思う。

 

さて、この本の主題である「仮想空間」とは、こうした仕事上の変化の話だけではない。

うちの息子は、普段よくバーチャルシューティングゲームをやっている。姿が見えない人同士が、リアル世界での年齢や立場とは関係なく、状況に応じて自分の強みを発揮し、その役割を全うしながらチームとして勝利を目指している。

ゲームの世界に留まらず、ひょっとしたらZ世代はそれが普通として育っているのかもしれない。

リアル世界の肩書やヒエラルキー、そして物質的アイデンティティがなく、それが前提で生きてきた子供たち。彼らが数年後に作るはずだった新しい社会が、コロナによっていきなり到来した。

仮想空間では、人は固有のアイデンティティを一つだけ持っている必要はなく、平野啓一郎の「分人主義」のように、対峙するコミュニティに応じてアイデンティティを使い分けることができる時代になる。

自立とは、依存先を増やすことである。
(小児科医熊谷晋一郎さんの言葉)

依存の対義語は、依存しない、ではなく、「多くのことに依存する」ということ。複数のコミュニティに属し、複数の収入源を持つこと自体が仮想空間シフトによって加速しやすくなる。

仕事は、やりがいとして、あるいはエンタメとして消費される時代だ。報酬よりも意義がモチベーションになる。ライフワークとライスワークを分離する考え方もあるが、融合するという考え方もある。

いずせにせよ、人生観は、分散化、ポートフォリオ設計が大事になるし、それが加速する環境になってきていると思う。