渡邉格著「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」

自分一人で、普通に食べて暮らすことは難しい。
そのために、近所の畑から野菜を譲ってもらう。
その代わり、壊れた畑の小屋の修理を手伝ってあげる。
そんなお裾分けを原単位にした小さな営みを「小さな経済」と呼ぶとすれば、
自分は相当「大きな経済」の中で働いている。
(まあたいていの会社員がそうだろうが)
自分の労働力で生まれた価値が、最終的な消費者にたどり着き、喜んでお金を払ってくれて、そのお金が巡り巡って自分の会社の収入になり、そこから自分の給料が払われるまでには途方もないほどの人や会社が関わっているだろう。
そんな「大きな関わり」の中にいる誇りと喜びもあるが、その一方で自分の仕事は本当に社会のために役立っているのか?誰か喜んでくれているのか?と考えると、
憂鬱な気分になることもある。
この本は、
大きな経済(資本主義)が、生活を豊かにしているのは確かだけど、
そこに生まれる矛盾に目を向け、
できるだけ小さな経済の中で心豊かに暮らすパン屋さんの本。

このパン屋さんが扱う「天然の菌」と純粋培養された「人工の菌」の対比の話は、
世界を回る「お金」や、子供の「育ち方」の話にもつながる。

自然界のあらゆるものは、いずれ土に還る。それが自然の摂理であり、「腐る」ということ。
それを行うのが菌の役目。
デンプンをブドウ糖に分解し、タンパク質をアミノ酸に分解して旨味を出す「麹菌」
糖を二酸化炭素とアルコールに分解する「酵母」
糖類を乳酸に分解する「乳酸菌」
このように菌は、人間の生命を育んでくれるものを「発酵」をさせ、日本酒やビールやパンや味噌など美味しそうな食べ物にしてくれる。
一方、人間の生命に危険を及ぼすものには、食べてはいけないよ、と知らせるために「腐敗」させる。
このように菌は、「腐敗」と「発酵」という2つの営みで、あらゆるものを土に還えさせる。
でも、それに反してあらゆる食品を腐敗しないようにしているのが、今の経済。
品質を均一に、安く、大量に作るために。
天然の菌は、菌ぞれぞれの個性があって扱いづらい。ある菌は酸味をもたらし、ある菌は旨味をもたらし。
一方の純粋培養菌は、旨味を出すなら旨味を出すだけ、与えられた役割を徹底的にこなす。
だから天然の菌ではなく、ただひたすら同じ仕事をしてくれる無個性な「純粋培養菌」が活躍する。
教育も同じ。扱いづらい個性を束ねるより、均一に育てたほうが効率的、になってしまう。
経済も同じ。均一に安く大量に。
「菌」を入り口に、働くことの意味を違った角度から考えさせてくれた、素晴らしい本でした。

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