この本、すんごい面白かった。
小説かドラマか、という感じで登場人物が魅力的に文体軽やかに描かれている。
ありきたりだが、トヨタの強さが本当によく分かる。
今は、モノよりも、お客様にどんなサービスや価値が提供できるか、
なんていう話になりがち。
特に自動車業界は、買うから使う、の傾向になっているし、
コネクティッドやモビリティサービスに視線が集まっているけれど、
やっぱり単純に「モノを作る」ことは素晴らしいし、
すべての根幹であり続ける。
印象的だった話が3つくらいあって、
1つめは
トヨタもはじめはベンチャー
という当然の事実。
根っからの発明家の佐吉と、モノづくりにしか興味のない喜一郎。
特に喜一郎が一度社長を退任した際、
物流用の小型ヘリ(ドローン?)を開発していた、って話は驚き。
そして戦前の時期から、
クルマを作る挑戦と同時に、
「作ったクルマを多くの人に届ける」という
難しい挑戦をした神谷正太郎さんの存在も
いまのトヨタの盤石な全国の販売体制の礎に
なっていることをあらためて知った
(神谷さんが東海市横須賀出身とは知らなかった!)
戦後まもなく、会社が潰れないよう、
従業員が食えるよう多角化。
いろんな業種に手を出した。
その中で章一郎が手がけた住宅建設がうまくいった。
それがのちのトヨタホーム。
そんなベンチャー時代から、
人々の生活を支える、かつ社員を切らない
という企業姿勢がうかがえる。
2つめは、
伝統が脈々と受け継がれるということ。
喜一郎のジャストインタイムという考え方を
体現しようとした大野耐一さんの思いが、
鈴村さん、張さん、池渕さん、林南八さん、友山さん、と
聞いたことのある名前の方に脈々と引き継がれている。
それに中卒で鍛造職人からたたき上げの現副社長、
河合さんの存在とか、トヨタの強さを象徴してる。
靴ひもを結ぶことができるかい?
じゃあ、その結び方を口で説明してくれるかい?
※著書「トヨタ生産方式」を翻訳した、
ゴールラット(ザ・ゴールの著者)の言葉。
知ることと、やれることの違う。
やれることと、やれるように教えることもまた違う。
難しい職人と心を通わせ、今までの当たり前を変えていく。
そんな困難から逃げることなく、向き合い続けたことこそ伝統。
3つめは、
何より「トヨタ生産方式」。
明治維新以来、日本の製品はいくつも世界に出ていった。
しかし、生産システムがアメリカへ行き、
その後、世界標準になったのはトヨタ生産方式たったひとつだ。
後にも先にもない。
大野さんが発足した生産調査室のメンバーが、
工場や協力会社を回って現場をカイゼン、
トヨタ生産方式を植え付けた。
その方式は販売店、そして事務業務にも及ぶ。
フォードは、
現場を見にこない経営陣が生産技術を考える。
現場は、決められた時間内で決められたことを何も考えずに頑張る。
自分の与えられた局所的なパートに誇りを持って働いている。
少品種大量生産ならこの形が効率的。
トヨタは、
現場が考え続け、改善を続ける。
そして、後工程に不良品を出さない。
アンドンでラインを止めたら、管理職からありがとう!と感謝される。
機械に人間の知恵を付与する自働化。
トヨタ生産方式とは、立場によって解釈が異なる、と言われる。
思うに、「トヨタ生産方式」は結果でしかなく、
その生産方式の根底にある、
今日やっていることを疑い、明日のために工夫を凝らす、という
カイゼンしていく精神こそが、
トヨタ生産方式そのものであり、
それが今もなおトヨタのコアバリューなんだと思う。