佐藤雅彦著「新しい分かり方」

例えば、良い自動車って何だろう、って考えるとき、
エンジンのパワーだったり、デザイン、居住性など、大事な要素はたくさんあるだろう。

どの要素もとても大切だ。しかし、よくよく考えてみると、自動車は地面を蹴って走るわけで、その自動車の重量を支え、地面と接地しているのは、たった数十センチ幅の4つのタイヤである。どんな高性能のエンジンや部品を積んでいても、結局、走りの最後の運命を担っているのは、なんだかんだタイヤである。

話変わって、普段広告コミュニケーションを仕事にしている自分は、「誰に」「何を」「どう伝える」を考えるのが仕事といえる。

いまの自動車の話と同様、その中でどれが大事?と考えると、もちろん、どの要素もとても大切だが、自動車にとって地面との接地面であるタイヤが大事なのと同じように、

広告コミュニケーションにとっても、忘れがちな大事な部分があるように思う。

それが、コミュニケーションの受け手である生活者の知覚(主に視覚、聴覚)に対する理解だ。

どれだけ良い商品を、良いメッセージで、良い感じで伝えたとしても、受け手の知覚の仕組みにそぐわないものであれば、広告の効果は最大限発揮できない。

しかしながら、仕事上、あまり知覚科学や脳科学が話題になることは少ないように思うし、自分もしっかり勉強しているわけでもない。。

受け手の気持ち(インサイト)はとことん分析するが、受け手の知覚については、あまり分析されていないように思う。

尊敬する佐藤雅彦さんのこの本は、あるものを見たときに人間が想像すること、解釈することの思考のクセがテーマ。

1秒間に数十コマの静止画の連続が動画を作り上げるように、2つの静止画の間にあるものを、人間はほぼ無意識に想像することが出来る。物体がA地点からC地点に移動した2つの写真を見て、B地点を通過している姿を想像する、というように。

人間は、1と3を見れば、ほぼ無意識に2の部分を頭の中に作り上げる。こういった能動的な想像こそが、「分かる」「理解する」「解釈する」という感覚なのだろう、と自分は理解した。

広告の世界では、2を伝えたいときに徹底的に2を訴えて刷り込ませる、という手法を取りがち。

伝えたいのは2でも、相手に伝わるための方法は1と3を見せることであり、2は相手に想像させる。という方法のほうが得策かも。

伝えると伝わるの違いを認識し、人間の想像力を期待した情報伝達の方法、について深く考えることが出来た。